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本と本屋と

第9回 挟む本

 


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電子かたりべ
 本を読まずに活用するには、「枕にして寝る」のが一番ポピュラーである。しかし、ちょっと固い。それよりは押し花をつくったりスクラップブックにしたりするほうが楽しい。四角いだけじゃなくて、ページが開くのだ。そこが本のすごさだ。

 すこし前、雑誌の豪華な付録が話題になった。エコバッグや折りたたみ傘、先日はとうとうテルミンまでついていた。箱が雑誌に外づけされたり、雑誌と箱が一体化したりして、もはや雑誌が付録になっている。雑誌のかたちが崩れるくらいに厚い付録が挟まっている方がわくわくするのに、と思う。『少女雑誌ふろくコレクション』(河出書房新社)では懐かしさに悶えるより、付録の担当者が国鉄の材質規制といかに闘ってきたかを知り、感じ入った。決められた資材、大きさ、厚さでつくるために、どれだけの工夫がなされてきたことか。その努力が少女たちを熱狂させてきた。(ちびまる子ちゃんのおばけごっこレターセット、まだ持っています!)

 本の付録は雑誌のようには多彩になっていない。ほとんどがCD-ROMである。表紙の裏に袋がついている。「CD-ROM付きのイラスト集はありますか?」ときかれて棚を見にいったら、ついていない本の方が少ないくらいだった。あまりにさりげなくて気づいていなかった。フロッピーディスク付き、というのもわずかながら流通している。『木戸孝允文書』(東京大学出版会、113,400円)にもついているようだ。気づいていなかった。

 あるべき付録がなければ、それは欠陥商品である。雑誌の付録をつけるときは必ず数を確認して、もれがないようにする。CD-ROMが抜きとられている(!)悲しい本を発見したら、出版社に電話してお詫びをして、なんとか代わりを送ってもらう。

 本に挟まれているのは付録だけではない。
 一番多いのはしおりである。同じ著者の本のリストが載っていたり、キャッチコピーが入っていたりと(ちくま文庫の「で、あなたは読んだの?」と問いかけてくるまなざし)、小さな紙に趣向が凝らされている。スピンと呼ばれる紐がついている本もある。ずっと開かずにいるとページに紐の跡がつく。現在スピンをつけている文庫は新潮文庫だけで、単行本でもつけないものが増えてきた。

 しおりのほかには刊行案内があり、さらに進むとPR誌になる。背表紙がなくてホチキス止めだったり折りたたまれていたりして、厚みはそれほどない。藤原書店の月刊PR誌「機」はその月の新刊に挟まれている。出庫のたびに挟みなおしたりはしないそうだ。著者インタビューなどが載っているので全集の月報のような役割もするらしい。
 感想を書いて出版社に送るはがきもよくある。「恐れ入りますが50円切手をお貼りください」というのが多いけれど、「料金受取人払」もある。まれに「差出有効期間」が過ぎていたりする。

 付録でない「挟みもの」はあくまでおまけであって、最新でなくてもいい、なくなっても仕方ない、というのが出版社と書店の認識だろう。だって、簡単に落ちるもの。店の床に落ちていてもどの本に挟まっていたのかわからなくて、申し訳ないと思いつつ捨ててしまう。
 それでも、大切に、楽しみにしているお客さまはやはりいる。「全集の月報がない」というクレームもあった。新評論はアンケートはがきを5枚出すと好きな本を1冊送ってくれるそうで、感心するとともに、絶対はがきを落としてはいけないんだなと肝に銘じた。

 1冊買ってくれたお客さまに自社の本をもっとアピールしようと、あれこれがんばって挟む。その結果ふくれあがった本からは、出版社の熱意が伝わってくる。挟めば挟むほど落ちやすくなるけれど、それは自由だから。本のかたちはすごい。

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