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本屋になる

第12回 本を語る

 前回書いたように本を出して、ちょうど2ヶ月で重版ができた。買ってくださった皆さん、ありがとうございます。この場を借りてお礼申し上げます。
 ベストセラーにはなれなくても最低限の数は売って、出版社や置いてくれる店にわずかでも還元したい。著者としてより本屋としてそう望み、そのためにはなんでもしようと思った。せっかくトークショーをしたのに著者が本に一言も触れなくて一冊も売れない、という歯噛みしたいようなイベントを何度も経験してきた。そういう控えめなようでぼんくらな著者にはなりたくない。
 と考えるあまり、ふだんの会話でも
 「それは本を読んでいただければわかります」
 などと口走ってしまい、あとで反省した。

 ともあれ、人前で(というより人と)話すのは得意ではないけれど、そんなことは言っていられない。呼んでいただけるのならば出ていく。
 最初は沖縄のローカル局のラジオに出た。夜の番組の本のコーナーで、パーソナリティの方と10分ほど話をさせてもらった。「どんな本ですか?」「お店はどこに?」といった質問にひとつずつ答える。台本なしの生放送、ぶっつけ本番。
 「では最後に、この本についてアピールしたいことを一言どうぞ」
 「アピール?」
 いろいろあるけど、特にない。一般的に見ればこういう点がアピールポイントだとしても、実はそうでもなくてああいうのもあるんです、というようなことを言おうとしたものの、長いし伝わりにくい。結局とてもどうでもいい話をしてしまい、後悔した。と同時に、誰が聞いているかもわからない状態でそんな正確な話をしようとしてもしかたないと思った。とにかくキャッチーに伝えなければ。本が読みたくなるように。

 その次の日はイベントをした。ジュンク堂書店那覇店、元職場である。開放された空間にお客さんを集めてその前で話すなんて本当に恐ろしいけれど、
 「恩返しのためにもやらなきゃね」
 わかっています。やらせてもらえるのは本当にありがたいことだもの。
 それでもひとりで講演なんて無理だと泣きついたところ、なんと4人で出ることになった。沖縄には、ボーダーインクから本を出版した古本屋がほかに3名もいるのである。ふだんから知っている皆さんと一緒で、話すのも4分の1でいいとなれば安心だ。
 「でも主役は宇田さんなんだから。ちゃんとしゃべってよ」
 わかっています。
 編集の人が司会をしてくれて、話をどんどん振られたので一生懸命しゃべった。2時間がとても長かった。CD発売記念のレコ発ライブなら「とても楽しい、あっというまの時間でした」とミュージシャンは言うだろうけれど、こちらにはそんな余裕はない。
 終わったあと、知り合いに
 「お人形のようだった。動かず、しゃべらず」
 と言われた。

 地元紙「沖縄タイムス」や、「日本の古本屋メールマガジン」にも宣伝文を書かせてもらった。話すよりは書くほうが慣れているはずなのに、これまたなぜだか卑屈になったり妙に媚びてしまったりする(と書いているそばから卑屈に媚びている)。
 本屋は本を売るのが仕事なのに、どうしてこんなに下手なのか。人の本ならいくらでもほめられるし適当なPOPも書けるのに。
 そもそも今回の本は現在進行形の自分の店について書いているので、本について語るといっても結局は店について、自分について語ることになる。店について書いた自分について語る、となるとメタに次ぐメタで、ぐるぐる巻きのがんじがらめになってしまう。

 一番いいのは、何も言わないこと。店頭に並べた本の表紙を見た人が、
 「あれ、これってこの店の本ですか?」
 「そうです」
 「お姉さんが書いたんですか?」
 「そうです」
 「わあ、すごいですね! 記念に買います」
 と自分から動いてくだされば。そんな都合よくはいかないよ、と思いきや、案外こういうことも起きたりするので、ますます黙ってしまう。







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