ビートン夫人の教え タイトル画像

ビートン夫人の教え

6 <後編>

9月
◎魚:
ブリル、鯉、鱈、鰻、フラウンダー、ロブスター、ぼら、牡蛎、ツノガレイ、テナガエビ、ガンギエイ、舌平目、ターボット、ホワイティング、ホワイトベイト(whitebait、鰯・鰊などの幼魚)
◎肉:
ビーフ、ラム、マトン、ポーク、子牛
◎鳥:
チキン、鴨、家禽、ガチョウ、雲雀、鳩、若雌鳥、兎、子鴨(teal)、七面鳥
◎猟肉:
ブラックコック、牡鹿、雷鳥、野兎、ヤマウズラ、キジ
◎野菜:
アーティチョーク、アスパラガス、インゲン、キャベツ、芽キャベツ、にんじん、セロリ、レタス、マッシュルーム、玉ねぎ、グリーンピース、ジャガイモ、サラダ用野菜ハーブ類、ハマナ、トマト、かぶ、ペポカボチャ、ハーブ類
◎果物:
ブリス(Bullaces、原注:野生または半野生のプラムの実)、ダムズン(訳注、スモモの一種。オリーブ大のきれいな紫色の実で生ではおいしくないがジャムや干果実にする)、イチジク、栽培されたヘーゼルナッツ、ぶどう、メロン、モレラチェリー(morella-cherries、訳注、スミノミザクラ(酸味実桜)の実)、桑の実、ネクタリン、桃、梨、プラム、カリン、胡桃
10月
◎魚:
バーベル、ブリル、鯉、鱈、鰻、フラウンダー、タイリクスナモグリ(gudgeon)、ハドック、ロブスター、ぼら、牡蛎、ツノガレイ、テナガエビ、ガンギエイ、舌平目、テンチ、ターボット、ホワイティング
◎肉:
ビーフ、マトン、ポーク、子牛、鹿
◎鳥:
チキン、家禽、ガチョウ、雲雀、鳩、若雌鳥、兎、子鴨、七面鳥、ヒドリガモ(widgeon)、野鴨
◎猟肉:
ブラックコック、雷鳥、野兎、ヤマウズラ、キジ、タシギ、ヤマシギ、雌鹿
◎野菜:
アーティチョーク、ビート、キャベツ、カリフラワー、にんじん、セロリ、レタス、マッシュルーム、玉ねぎ、ジャガイモ、芽キャベツ、トマト、かぶ、ペポカボチャ、ハーブ類
◎果物:
りんご、黒および白のブリス、ダムズン、イチジク、栽培されたヘーゼルナッツ、ぶどう、梨、カリン、胡桃
11月
◎魚:
ブリル、鯉、鱈、蟹、鰻、タイリクスナモグリ、ハドック、牡蛎、カワカマス(pike)、舌平目、テンチ、ターボット、ホワイティング
◎肉:
ビーフ、マトン、子牛肉、牝鹿
◎鳥:
チキン、家禽、ガチョウ、雲雀、鳩、若雌鳥、兎、子鴨、七面鳥、ヒドリガモ、野鴨
◎猟肉:
野兎、ヤマウズラ、キジ、タシギ、ヤマシギ
◎野菜:
ビートの根、キャベツ、にんじん、セロリ、レタス、遅生りきゅうり、玉ねぎ、ジャガイモ、サラダ用野菜ハーブ類、ほうれん草、芽キャベツ、ハーブ類
◎果物:
りんご、黒および白のブリス、栗、栽培されたヘーゼルナッツ、ぶどう、梨、胡桃
12月
◎魚:
バーベル、ブリル、鯉、鱈、蟹、鰻、デース、タイリクスナモグリ、ハドック、鰊、ロブスター、牡蛎、パーチ(perch、スズキ科の淡水魚)、カワカマス、小エビ、ガンギエイ、スプラットイワシ(sprat、北大西洋産ニシン科の魚)、舌平目、テンチ、サカタザメ、ターボット、ホワイティング
◎肉:
ビーフ、ハウスラム、マトン、ポーク、鹿
◎鳥:
去勢鳥、チキン、家禽、ガチョウ、鳩、若雌鳥、兎、子鴨、七面鳥、ヒドリガモ、野鴨
◎猟肉:
野兎、ヤマウズラ、キジ、タシギ、ヤマシギ
◎野菜:
ブロッコリー、キャベツ、にんじん、セロリ、リーク(長ネギの一種)、玉ねぎ、ジャガイモ、スコッチケイル(scotch kale 強く葉の縮れたキャベツの一種)、かぶ、冬ほうれん草
◎果物:
りんご、栗、栽培されたヘーゼルナッツ、ぶどう、セイヨウカリン、オレンジ、梨、胡桃、アーモンド、レーズンなどの干した果物、いちじく、棗など、砂糖漬けの果物

 これらを概観すると、四季折々、また山海の珍味に恵まれた食材天国の日本と比べれば、はるかに貧しい種類のものしか出てこない。
 とくに魚において、その貧弱さと単調さが明らかであるが、これは現代のイギリスでもほとんど変らない。
 ただし、この表には、イカ・タコの類が皆無であるが、現代ではそういうものも普通に売っているようになったし、またここにはマグロの類が全然見あたらないけれど、今ではメジャーな食材として認知されるようになっていることなども、すこし違っている。
 それからやはり季節性、旬の食べ物というような意識は遥かに稀薄であることが伺われる。
 そういうなかでも、牛と羊は通年変らず食べていたのに対して、豚肉と鹿肉には、いささかの季節性があり、四六時中食べていたのではないことが分かる。
 また、poultryというと、ふつうは家禽のことを言うのであるが、ここでは必ずしも家禽ばかりでなく、野鴨なども含まれている。またgameというとき、普通は猟鳥を指すのであるが、これも鹿肉などが含まれることもあって、必ずしも厳密に分類されているとはいえない。
 また兎はもちろんほ乳類ではあるが、あの耳が羽のように長いからであろうか、日本でも一羽二羽と数えるのと似て、イギリスでも鳥のところに分類されているのはちょっと面白い。
 こういう食材表と、私自身の経験を照合してみると、たとえば、秋になってヴィクトリアという種類のプラムが枝もたわわに生っていくらも収穫できたことや、あの小さくて甘い林檎が秋の強風に揺すられて落ちていたことや、ぐっと寒くなって霧が立ちこめるころになると、田舎の料理屋では鹿肉の新物が出て舌鼓を打ったことや、あれこれ懐かしく思い出される。
 そうすると、やっぱりビートン夫人の時代も今も、イギリスの食材の原則はそれほど変っていないなあという感を深くするのである。

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