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おすすめマンガ時評『此れ読まずにナニを読む?』

第65回 池田暁子 『1日が見えてラクになる!時間整理術!』 (メディアファクトリー)

池田暁子 『1日が見えてラクになる!時間整理術!』 (メディアファクトリー

(C)池田暁子/メディアファクトリー

 時間は誰にとっても平等に、1日が24時間。……のはずなのに、その1日が、いつの間にか終わってしまう、という「時間の使い方がヘタな人」がいる。自慢じゃないが、私自身もそのタイプだ。「やらなきゃ」という強迫観念だけは人一倍なのに、結局たいしたこともできず1日が終わることもしばしばなのだ。
 『1日が見えてラクになる!時間整理術』は、これまで苦手なことを克服する数々のエッセイマンガを描いてきた作者が、時間の使い方の改善にとりくんだ最新作だ。時間の使い方がヘタ、という自覚がある私は
 「私にとって、きっと役に立つことが描かれているはず」
という期待と、
 「でも、読んでダメージを受けるような厳しいことが描いてあったらどうしよう……」
というちょっぴり不安な気持ちの両方を胸に手に取った1冊である。
 
 作者は、3年前に衝撃のエッセイマンガ『片づけられない女のためのこんどこそ!片づける技術』(文藝春秋)という単行本で注目を集めた。 床が見えないほどにちらかった自分の「汚部屋」を一念発起して片づける、という内容だが、かわいい絵柄なのに、その散らかりっぷりの描写は半端ではなく、そのリアルさにはとにかく圧倒された。  私自身も片づけがヘタで、特に増え続けるマンガに生活空間を圧迫される悩みと現在進行形で戦い続けているので、とても人ごとと思えずに出版当初、熱心に読んだ。
 笑ってしまったのは、作者が改めて数えたら、6畳・3畳+台所という2Kのアパート(26平米)に、なんと20個以上の棚があった、という部分だ。「物が積み重なっているから片づかないんだ」→「棚があれば片づくはず」という思考のもとに、買い足し買い足しした棚が気づけばそんなスゴい数に、というくだり。
 実は私も「棚を買えば片づかない悩みは解決するはず!」とつい思ってしまう「棚好き」なので、「私と同じ発想!」とおかしかったのだ(きっと片づけが上手い人は、「ここに入らないものは、捨てる」という逆の発想をするのだと思う)。
 だが、そんな片づけの苦手な作者が、「散らかるもとの発想」に気づいて少しずつ改善し、大変なカオス状態だった部屋を片づけていく様子にはとても説得力があった。というのも、当時テレビなどでよく、片づけられない人の部屋を、業者などをつかってキレイにする……という企画があったのだが、たとえいったん片づけても、部屋の主が「片づけながら暮らしていく」というスキルを習得してないと、生活していくうちに結局元に戻ってしまうものだからだ。
 この本は「散らかしてしまう人」の行動パターンや発想を自己分析し、改善して見事に汚部屋を脱出する様子を描いていたので、「面白くて役に立つ」1冊になっていたのだ。
 
 さて、今回の時間整理に関する本では、つねに「やらなくちゃ」と思いながらも現実には行き当たりバッタリに思いつきで行動していた作者が、やることを「まとめる」ことで、生活をスッキリさせて能率をあげていく様子が描かれる。
 毎朝やることは「朝セット」、昼は「昼セット」としてまとめることで、やり忘れを防げるようになるのだが、そうなってみて作者が気がつくのは
 「生きてくための雑用って 時間かかるわあ……」
 ということだ。
 うーん。名言である。
 当たり前といえば当たり前なのだが、私を含めて時間の使い方がいまひとつ「ゆるい」人というのは、そのあたりの認識がぼんやりしているのだと思う。雑用あなどりがたし、なのだ。
 そんなわけで、私にとっても耳が痛い発見が描かれた本書だったのだが、「これは!」と思ってマネをしてみたのが「ネット接続をまとめる」という部分である。作者は、仕事でパソコンを使うときは接続コードを抜いて、ふらふら・だらだらとネットを見ることをやめたところ、仕事に集中できてとてもラクになったという。私はそこまではしていないが、ためしにネットにつなぐ回数を少なくしたら、やはり非常にすっきりした。先日新聞で、あるベテランのミュージシャンが「現代は<気が散る>
 ものがたくさんある時代」という意味の発言をされていて「ああ、本当にそうだな」と感じたが、ネットは上手くつきあわないと「気が散る」ツールになってしまうんだな、と反省した。
 
 そんなわけで、やっぱり本書は、私にとって役に立つことが描かれていた。しかも、まったく気取ることなく失敗を赤裸々に描き、「そんな私がこういう工夫で、こんなふうに変われましたよ」と報告してくれる作者の作風が嬉しいのだ。
 「ああ私ってちゃんと出来なくて本当にダメ人間……」という気持ちに押しつぶされて、改善したいと思いつつもなかなかできない私のような人間にとっては、「私も苦手だったけど、こうしたらできるようになったよ」と語りかけてくれるようなエッセイコミックは、問題に立ち向かうハードルを下げてくれる、頼りになる優しい先輩のような存在なのである。
(川原和子)  

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