おすすめマンガ時評『此れ読まずにナニを読む?』
第2回 槇村さとる 『Real Clothes (リアル・クローズ)』 (集英社)
(C) 槇村さとる/集英社 現在2巻まで発売中、以下続刊
また、一販売員の絹恵にとっては「遠い世界の人」に思える、外部からスカウトされた統括部長の神保美姫や、カリスマバイヤーの田渕優作といった人々も登場する。他を圧する厳しい雰囲気でキツい言葉を吐く彼女や彼。しかし、休日にまでハイブランドの店に客として潜入し研究を怠らぬ優作、客の好きな花やワードローブまで把握し、完璧なサービスで桁違いの額を売り上げる美姫さまの仕事ぶりは、絹恵を魅了していく。
「私は魔法使いなの」と言う美姫さま。
客が「脚のびた〜〜〜!! 」と大喜びするほどのお直しをやってのける凌もそうだが、美姫さまたちは、客をステキにして満足させる技術をもった、「プロ」という魔法使いなのだ。
仕事とは、「結果」を出さなければいけないものだ。だから、ときには耳に痛いことも言われるし、嫌いな人間ともつきあわなくてはならない。
しかし、そういう相手と一緒に仕事をするうちに、反発しながらも「いけすかないけどプロとしてはすごい――」という気持ちになることがある。
それは、好き、とは違う、「尊敬」という感情だ。
圧倒的な人を仰ぎ見て「尊敬」し、自分もああなりたいと思う。
でも、自分と彼女/彼は、違う人間。
じゃあ、自分が自分なりに、どうすれば「ああなれる」のか? そんな試行錯誤が、絹恵を成長させていくのだ。
本作を読んでいると、「自分にピッタリあった仕事」なんてものが先に用意されてるわけではなくて、求められる仕事を自分が工夫してやっていく中で「自分にしかできない部分」が生まれるのだ、と思えてくる。
デパートの販売員、という絹恵の仕事がら、彼女たちのプロとしての仕事ぶりや成長は、ステキな服を中心としたビジュアルで表現されることが多い。だから、絵として「うわ、この服カワイイ」というエンターテイメントとしてのワクワク感も味わいながら、読み終えたとき「プロって、なんてカッコいいんだろう」と背筋が伸びるような気持ちで思える構造になっている。
そんな本作は、ベテラン・槇村さとるという「プロ」の仕事だ。
いま、とても続きを楽しみに待っている一作である。(川原和子)